2020年より株式会社ZOZO NEXT、東京大学大学院情報学環 筧康明研究室、株式会社 細尾、の3者は、伝統工芸と先端素材およびインタラクション技術を組み合わせ、機能性と美を両立する新規テキスタイルの開発を行ってきました。これまでに、周囲の環境情報と織物を媒介する様々な機能と表現の両立に挑戦し、「環境情報を表現する織物」「環境そのものが織り込まれた織物」"Ambient Weaving"のコンセプトを提案してきました。
"Woven Prototypes"とは、伝統工芸と先端テクノロジーの掛け合わせを行っていく中で、Ambient Weavingのコンセプトを深堀り・拡張していくために、出てきたアイディアを具現化したプロトタイプ群を指します。"新たな機能を統合した織物"、"表現と意匠の組み合わせを探索中の織物"、"過去の作品からさらに技術を深めた織物”などが含まれています。このような新しい挑戦を形にして、問いかけていくことで、コンセプト自体の深化や織物との新たな関係性の創出に繋げていくことを目指しています。
この織物は圧電性を有する高分子フィルムの両面に電極を設けた素材を引き箔として織り込み、スピーカーとして機能します。緯糸の部分のみがオーディオの電気信号により振動するため、特定部位のみに音を発生させたり、形状に応じて音の広がりを変化させたりすることができます。
また、織物は外の音を透過するため、環境音に織物からの音を重畳する等、従来とは異なる音の演出を実現します。
この織物は入射光と観察者の位置により見え方が変化します。再帰性反射性のビーズと薄膜干渉層を備えた特殊な箔糸が織り込まれており、入射光の角度に応じた光路長に対応する干渉色を示します。西陣織の立体構造により、同じ箔糸でありながら多様な色が現れ、観測者との相対的な位置関係により、見え方が変化する様子を鑑賞できます。本プロトタイプの技術は量産織機を用いた大型化も可能となっています。
二枚の織物を重ね、光が透過すると発色する仕組みを持つインスタレーション。偏光板とOPPテープで構成された箔が織り込まれ、光が織物を重ねた状態で透過すると複屈折による光の干渉により偏光色が表れます。同じ素材ながらも偏光板の向きやテープの厚みを変えることで複数の色を表現し、また箔の順番のアレンジにより様々な色パターンを生成します。鑑賞位置によってもその見た目は動的に変化します。
巻き取れる一枚の布から立体形状に変形可能な織物。2種類の長さの靭性のあるカーボンバーが緯糸の一部に織り込まれています。バーの端部をスナップボタンで接続することで織物は立体へ変化します。形状はシミュレーションにより設計され、接続順序・位置を変えることで同じ織物から複数の異なる形の立体が構成できます。今回展示される3つの立体は、それぞれ蕾・半開き・全開の花をイメージし、同一設計の織物から造形されました。
特殊な箔素材の重ね合わせにより、表面と影が異なる様態を示す織物です。緯糸として用いるフィルムの表面に微細構造を制御したインクによる印刷パターンを施すことで特定の波長を反射し、金属光沢のような質感を生み出します。このフィルムを複数枚特定の順序で重ねて織り込むことで、織物の透過光とフィルム裏面からの反射光が重畳し、色の変化だけではなく印刷パターンの周期的なずれによるモアレパターンが現れます。
この織物はドットマトリクス状に発光する機能を持ちます。箔に電流を流すと、緯糸に織り込まれた有機ELダイオード (OLED) 箔が自発光します。OLED箔と、経糸の導電糸との交差によりマトリクス状の回路を構成しています。箔は背面に配置され、非発光時にも西陣織の意匠を損なうことはありません。しなやかさや織長に応じたスケーラブルな設計が可能です。