2020年より株式会社ZOZO NEXT、東京大学大学院情報学環 筧康明研究室、株式会社 細尾、の3者は、伝統工芸と先端素材およびインタラクション技術を組み合わせ、機能性と美を両立する新規テキスタイルの開発を行っています。これまでに、周囲の環境情報と織物を媒介する様々な機能と表現の両立に挑戦し、「環境情報を表現する織物」「環境そのものが織り込まれた織物」"Ambient Weaving"のコンセプトを打ち立てました。
織物を環境とのインタフェースとしてのアンビエントメディアと見立て、環境変化に呼応して変化するテキスタイルの表現や環境に呼応する様に変化を生む布のあり方をプロトタイプを通じて提案しています。
周辺環境の温度に応じて色が変化する織物です。
特定の温度に達すると呈色するロイコ色素を含んだインクを和紙の両面に塗工し、裁断することで、箔紙として緯糸に織り込んでいます。25度以上になると黒から青色に呈色し、温度が下がると黒色へと戻っていきます。この可逆的かつリアルタイムの変化を通して、温度の変化を視覚的にも訴えることで人々の意識を開きます。
クロマトグラフィーというロシアの植物学者ミハイル・ツヴェットが発明した物質を分離する技法を応用した織物です。本来、染色とは糸に染料を吸収させ、定着させることを指しますが、この作品では、それぞれの染料の電荷・質量・疎水性の差により、異なる時間で糸の中を染料が移動します。湿度や水分量を適正に保つことで、この分離と移動が起こり、染料が糸へと浸透した後も動的に色が変化し続けます。
細径のチューブを織り込んだ布に、紫外光を照射することで硬化するレジンを封入した作品。紫外光照射前は、柔軟性のある織物であるが、紫外光に晒すと数秒で硬化し、形が定着します。この作品では、織物を水が滞留する水槽内に入れ紫外光で硬化させることで、水の流れを織物に写し取っています。
「Woven Glow」は、発光する織物。電圧をかけると有機物が自発光する有機ELダイオード(OLED)の箔を、緯糸として織り込んだ作品。Woven Glowと対をなす作品で、自らが発光することでその様態を変化させます。OLED箔は背面に配置されており、発光をしていないときは普通の西陣織と変わらない意匠として振る舞うことができます。本作品は単色のみと3色に発光するバージョンがそれぞれ作成されています。
「Woven Clouds」は、光の透過度が可変的な織物。PDLC(高分子分散型液晶)を箔状に裁断し、緯糸として織り込んでいます。不透明な白色をした織物であるが、電圧を印可すると液晶分子が電界方向に配向し、光を透過させます。本来は環境の光を反射する静的な織物そのものが、動的に干渉することでその様態を変化させます。